デジタルと「人間の勘」


 大変な夏がやっと終わりました。皆様「秋バテ」は大丈夫でしょうか。

 8月初旬の低温に続く、お盆時期の異常な高温多湿。各地で頻発したゲリラ豪雨に竜巻、台風直撃に落雷、洪水…自然災害のオンパレードでした。最近になってやっと秋らしい爽やかな気候になってきましたが、それもつかの間、今期の冬は寒そうです。だんだんと異常気象が激しくなって来て、四季の感覚も薄れて来るのは日本人として困った限りです。これからは私たちも気候に対する向き合い方を変えてゆかなければならないのかもしれません。

 ここのところ日本にも明るい話題がいつくか見え始めています。例えば東京オリンピック開催の決定があります。経済効果も期待され、すでに株価も動いているようです。最終プレゼンテーションはスポーツにあまり造詣が深くない私でも感心する出来栄えだったと思います。また経済面でも指標は上向きとなり、景気回復の足音が遠くから聞こえ始めていると云われてもいます。これらを含めて、現代の社会でその裏表を問わず活躍するのが「デジタル技術」です。プレゼンテーションで使われた映像もデジタル処理され、最適なタイミングで映像を映し出します。現在の金融取引は職人ではなく、デジタルの処理速度が第一に問われます。さまざまな業界の市場調査でもあらゆるデータがデジタル化され、分析されます。今ではなくてはならない技術となりました。その中でも特に注目されるものに「ビッグデータ」があります。ビッグデータとは、あらゆるデータを大型コンピューターで処理し、加工する技術だそうです。コンビニやスーパー、百貨店等あらゆる商品の動きをデータ化し、季節や天候、日にちや時間で人々がどのような消費傾向を示すか、人間が自動車を運転するときにどのような動きをし、どのような判断をしているか等をデータ化し、その膨大なデータから自動運転技術なども開発されています。また地震国である日本において、今までの地震データを解析し、シュミレーションし、地震発生の予測に役立てる。医療においてさまざまな患者のデータを集め、診断や新薬の開発に利用する等々さまざまな方面で利用可能な技術であり、今まで考えられなかったアイデアを導き出す技術かもしれません。これはコンピューターの進歩により、より多くのデータを素早く処理できることによって可能になってきたのですが、今後ますます加速的に進歩してゆくでしょう。

 反面、弊害も出ています。あまりにも早いスピードに人間の感性が追いつかず、操作する人たち(勿論我々普通の利用者も含みます)の精神状態を蝕んだり、個人データをどこまで収集してよいかなどの個人情報保護の観点も問題になりつつあります。つい最近でもアメリカのCIA(中央情報局)が個人の通話記録等を傍受していたことに耐えられなくなった職員がその事実を告発し、アメリカからロシアへ亡命を余儀なくされたという事件もありました。「アマゾン」という会社をご利用になっている方も多いことでしょう。自分のページを開くと、「あなたへのお勧め商品」がずらっと表示されるのに驚くことでしょう。これも今までの購入履歴や検索履歴をすべて収集し、分析し「お勧め」をしてきます。すでに個人情報は着々と収集されています。このように「ビッグデータ」はすでにさまざまなところで利用され始めています。今後、個人情報の取り扱いは大変な問題にもなってくるでしょう。

 このように、「ビッグデータ」はすごい技術で、これからはますます利用されてゆくことは確実です。

 先日、NHKの番組でこのビッグデータを取り上げたものがありました。東日本大震災で被災し、一時は壊滅的になった地場企業をビッグデータによってさまざまな解析をし、今まで気付かなかった流通や取引関係をコンピュター・グラフィックにより「目に見える化」し、その実態を探ろうという試みです。グラフィック化したものを文章で説明するのはなかなか難しいのですが、具体的に記せば、例えばある「お弁当会社」の取引をデータ化したとしましょう。お弁当にはお米がつきものです。すると当然お米屋さんと取引があります。お米屋さんは農協と取引があります。農協は農家と取引します。農家は肥料や農薬を使います。農薬製造会社が潤います。お弁当を包むパッケージは製紙会社が絡み、印刷会社が印刷し、そこにはデザイナーがいます…きりがありませんが、このようにさまざまな会社が複雑に絡み合って一つの会社は取引をしているので、その一つが倒産すると、連鎖的に無数の企業が影響を受けます。このデータを映像化しているのです。ある一社の取引が数値化され、下請け、取引先、それに関連するあらゆる企業とのネットワークが線で結ばれてゆきます。そこに表れて来たのは、くもの巣も遠く及ばない複雑な「線」でした。それを見ると「お~!一社の取引はこんなに多岐にわたって影響があるのか~!」と正直、素直に驚きます。そしてそこからさまざまなマーケティングや盲点を探ってゆこうという試みです。素晴らしい試みだと思います。そしてどんどん番組が進むにつれてある疑問が浮かんできました。

 「だけどそれがどうしたの!?」です。

この試みは素晴らしいと思いますが、冷静に考えてみると、それぞれ「くもの巣」のように関連する会社ごとに経営者がいます。そしてそれぞれの経営者が工夫をこらし、考えています。経営者は刻々移り変わる状況を判断し、決断をします。経営に重要なのはその「勘」なのだということです。どんなに素晴らしいデータがあっても、その使い方を決めるのは「人」です。

 もし、デジタルデータが最重要であるなら、近い将来そこに「人」はいらなくなるのでしょうか。医療も同じです。医師が過去から積み上げてきた膨大な経験をデータ化し、分析してゆくと、恐らくほとんどの医師より正確な診断が出来るコンピューター病気判定機が生まれるでしょう。これに血液検査なども自動で組み込んだら最強です。

 しかしながら、経営も医療もそこに「人」がいなくなることはないでしょう。何故ならば、すべてが「生命である人間」を相手にしているからです。生体エネルギーの交流が不可欠だからです。一般的な言葉で言えば「心が通う」ということでしょう。これがなければ人間関係は成り立ちません。経済も医療も同じです。

 ビッグデータはこれからも発達し、利用されていくと考えます。私もこれに反論はありません。けれども大切なことは、「そのデータを使いこなすのは人間」であり、「使いこなすには勘が大切」ということです。そして「デジタルは使うもの」で「使われるものではない」ということです。デジタルの発達とともに、ますます我々人間は自分の勘を磨く努力を忘れてはいけないということになるでしょう。

 すべての事柄には「心が通う」ことが大切です。これからの日本の向かう道が「心通う」ものになるよう気を配りましょう。